バリトンサックスは単なる「低音担当」ではありません。ジャズの歴史を塗り替えてきた名手たちを知ることは、あなたの演奏に革命を起こす最短ルートです。


なぜ彼らを知るべきなのか

バリトンはしばしば「ついで」扱いされますが、レジェンドたちはこの巨大な楽器をアルトのように操り、あるいはビッグバンドの魂として君臨してきました。彼らの「音の作り方(セッティング)」を含めて紹介します。

マウスピースの詳しい選び方は「バリトンサックス マウスピース おすすめ5選」で解説しています。


レジェンド編:道を切り拓いた巨人たち

1. ハリー・カーネイ (Harry Carney)

「バリトンをリード楽器に変えた始祖」

デューク・エリントン楽団に47年間在籍。それまで「ルート音を支えるだけ」だったバリトンの役割を、サックスセクションのリード(主旋律)を担う花形楽器へと変貌させました。

  • スタイル: 圧倒的な音圧と美しいサブトーン。
  • 聴くべき名演: "Sophisticated Lady"

2. ジェリー・マリガン (Gerry Mulligan)

「ピアノレスで一世を風靡した革命家」

ピアノを除いたカルテットや、自身がリーダーを務める「コンサート・ジャズ・バンド」を率い、バリトンを主役(フロント)に据えた功労者です。

  • セッティング: 開きの狭いマウスピースで「歌う」ように吹く。
  • 聴くべき名演: "Line for Lyons"

3. ペッパー・アダムス (Pepper Adams)

「ナイフの切れ味を持つハードバッパー」

マリガンの軽やかさに対し、ベルグラーセンのマウスピースで硬質かつアグレッシブに鳴らすスタイルを確立しました。

  • セッティング: Berg Larsen (Metal)。バリバリと鳴るエッジ。
  • 聴くべき名演: "Conjuration"

4. サージ・チャロフ (Serge Chaloff)

「クールジャズ期に散った天才」

ウディ・ハーマン楽団の「フォー・ブラザーズ」の一員として名を馳せた。37歳で早世するも、バリトンでクールかつリリカルな表現を追求した先駆者です。

  • スタイル: 繊細で歌心のあるフレージング。ウェストコーストの洗練。
  • 聴くべき名演: "Thanks for the Memory" (Blue Serge)

5. ロニー・キューバー (Ronnie Cuber) ※2022年逝去

「ファンク〜ラテンジャズ界のバリトン番長」

現代のファンキーなバリトンの完成者。Low Bbの楽器(Selmer Mark VI)にこだわり、レスポンスの良さを追求しました。

  • セッティング: Berg Larsen。パワフルでソウルフルな咆哮。
  • 聴くべき名演: "Cubism"

現代・海外編:可能性を広げる名手たち

6. ゲイリー・スマルヤン (Gary Smulyan)

「現代バリトンサックスの第一人者」

ペッパー・アダムスの後継者として、現代のジャズシーンでバリトンサックスを牽引する存在。ヴァンガード・ジャズ・オーケストラを含む数々のビッグバンドで活躍しています。

  • セッティング: Otto Link (Metal)。ダークで深みのある音色。
  • 聴くべき名演: "Homage"

7. フランク・バジーレ (Frank Basile)

「現代ハードバップの守護神」

ペッパー・アダムス直系のスタイルで、現代のNYシーンを牽引。圧倒的なテクニックとスピードを誇ります。

  • セッティング: Berg Larsen (Metal) を使い、太く鋭い音色を継承。
  • 聴くべき名演: "Brotherhood" (with Gary Smulyan)

8. セシル・ペイン (Cecil Payne)

「ビバップ期のバリトンのパイオニア」

ディジー・ガレスピーのビッグバンドで活躍し、バリトンサックスでビバップを演奏する先駆者となりました。バリトンでの高速フレーズの可能性を切り拓いた人物です。

  • スタイル: ウォームな音色でビバップのフレーズを軽やかに紡ぐ。
  • 聴くべき名演: "Cerupa"

9. ハミエット・ブルーイエット (Hamiet Bluiett)

「フリージャズのバリトン巨人」

ワールド・サキソフォン・カルテット(WSQ)のメンバーとして、バリトンサックスの表現の限界を押し広げた奏者。サーキュラーブリージングやマルチフォニクスを駆使し、バリトンの未踏の領域を切り拓きました。

  • スタイル: フリーかつパワフル。バリトンの音域を極限まで活用。
  • 聴くべき名演: "Steppin'" (World Saxophone Quartet)

10. ブライアン・ランドラス (Brian Landrus)

「次世代バリトンサックスの旗手」

現代ジャズにおけるバリトンサックスの最前線にいる奏者。バスクラリネットも演奏し、低音楽器の可能性を追求しています。

  • スタイル: リリカルでモダン。現代ジャズの和声感覚をバリトンに昇華。
  • 聴くべき名演: "Mirage"

日本編:国内シーンを支える名手たち

11. つづらのあつし (Atsushi Tsudura)

「日本のバリトン界を支える第一人者」

日本を代表するバリトンサックス奏者であり、教育者。その正確なテクニックと幅広い音楽性は、多くの日本人奏者の指標となっています。

12. 宮本大路 (Taiji Miyamoto) ※2016年逝去

「バリトンを『主役』にした日本のレジェンド」

熱帯JAZZ楽団などで活躍。バリトンを「地味な楽器」から「派手で格好いい楽器」へと世間に知らしめた功労者です。


セッティング別:あなたの目指す音はどっち?

理想の音を見つけるために、奏者のセッティングを参考にしてみましょう。

方向性 奏者のタイプ 推奨セッティング
パワフル・エッジ アダムス、キューバー、バジーレ Berg Larsen (Metal) / 硬めのリード
ダーク・ウォーム スマルヤン、カーネイ Otto Link (Metal/Rubber) / 太い音
軽快・リリカル マリガン、チャロフ 開きが狭めのマウスピース / 薄めのリード

マウスピースの詳しい比較は「バリトンサックス マウスピース おすすめ5選」を、リード選びは「リードの選び方完全ガイド」をご覧ください。


まとめ:自分の「目標」を見つけよう

バリトンサックスの面白さは、セッティング一つで「チェロのような甘い音」から「重戦車のような咆哮」まで変化することにあります。まずは気になった奏者のアルバムを1枚、じっくり聴き込むことから始めてみてください。

各奏者の代表アルバムは「バリトンサックス ジャズ名盤ガイド」でまとめています。