バリトンサックスは単なる「低音担当」ではありません。ジャズの歴史を塗り替えてきた名手たちを知ることは、あなたの演奏に革命を起こす最短ルートです。

「まず誰を聴けばいい?」という方には「バリトンサックスを始めるなら まずこの5人」を先にご覧ください。入門に最適な5人をまとめています。


この名鑑について

バリトンはしばしば「ついで」扱いされますが、レジェンドたちはこの巨大な楽器をアルトのように操り、あるいはビッグバンドの魂として君臨してきました。彼らの「音の作り方(セッティング)」を含めて紹介します。この名鑑は今後も奏者を追加していく予定です。

マウスピースの詳しい選び方は「バリトンサックスのマウスピースを4本乗り換えて Berg Larsen ラバー115に辿り着いた理由」で解説しています。


レジェンド編:道を切り拓いた巨人たち

1. ハリー・カーネイ (Harry Carney)

「バリトンをリード楽器に変えた始祖」

デューク・エリントン楽団に47年間在籍。それまで「ルート音を支えるだけ」だったバリトンの役割を、サックスセクションのリード(主旋律)を担う花形楽器へと変貌させました。

  • スタイル: 圧倒的な音圧と美しいサブトーン。
  • 聴くべき名演: "Sophisticated Lady"

詳細は「ハリー・カーネイ完全ガイド」をご覧ください。

2. サージ・チャロフ (Serge Chaloff)

「クールジャズ期に散った天才」

ウディ・ハーマン楽団の「フォー・ブラザーズ」の一員として名を馳せた。33歳で早世するも、バリトンでクールかつリリカルな表現を追求した先駆者です。

  • スタイル: 繊細で歌心のあるフレージング。ウェストコーストの洗練。
  • 聴くべき名演: "Thanks for the Memory" (Blue Serge)

詳細は「サージ・チャロフ完全ガイド」をご覧ください。

3. セシル・ペイン (Cecil Payne)

「ビバップをバリトンに持ち込んだパイオニア」

1922年ブルックリン生まれ。1940年代末にディジー・ガレスピーのビッグバンドで活躍し、バリトンサックスでビバップを演奏する先駆者となりました。チャロフと同世代ながら2007年まで活動を続け、ビバップの語法をバリトンに根付かせた功績は計り知れません。

  • スタイル: ウォームな音色でビバップのフレーズを軽やかに紡ぐ。
  • 聴くべき名演: "Cerupa"

詳細は「セシル・ペイン完全ガイド」をご覧ください。

4. ジェリー・マリガン (Gerry Mulligan)

「ピアノレスで一世を風靡した革命家」

ピアノを除いたカルテットや、自身がリーダーを務める「コンサート・ジャズ・バンド」を率い、バリトンを主役(フロント)に据えた功労者です。

  • セッティング: 開きの狭いマウスピースで「歌う」ように吹く。
  • 聴くべき名演: "Line for Lyons"

詳細は「ジェリー・マリガン完全ガイド」をご覧ください。

5. ペッパー・アダムス (Pepper Adams)

「ナイフの切れ味を持つハードバッパー」

マリガンの軽やかさに対し、ベルグラーセンのマウスピースで硬質かつアグレッシブに鳴らすスタイルを確立しました。

  • セッティング: Berg Larsen (Metal)。バリバリと鳴るエッジ。
  • 聴くべき名演: "Conjuration"

詳細は「ペッパー・アダムス完全ガイド」をご覧ください。

6. ニック・ブリニョーラ (Nick Brignola) ※2002年逝去

「ペッパー・アダムスと双璧をなしたハードバッパー」

ニューヨーク州トロイ出身(1936年生まれ)。ウディ・ハーマン、チャールズ・ミンガス、フィル・ウッズらと共演し、ペッパー・アダムスとの共演盤『Baritone Madness』(1974年録音)で国際的な評価を確立。アダムスに匹敵する攻撃的でエネルギッシュなスタイルが特徴で、20枚以上のリーダー作を残しました。

  • スタイル: 豪快でパワフル。ハードバップの語法を高速テクニックで体現。
  • 聴くべき名演: "Baritone Madness" (with Pepper Adams)

詳細は「ニック・ブリニョラ完全ガイド」をご覧ください。

7. ロニー・キューバー (Ronnie Cuber) ※2022年逝去

「ファンク〜ラテンジャズ界のバリトン番長」

現代のファンキーなバリトンの完成者。Low A Selmer Mark VIを愛用(2本所有)し、太くソウルフルな音色を生み出しました。

  • セッティング: François Louis カスタムメタル(1989年以降)。パワフルでソウルフルな咆哮。
  • 聴くべき名演: "Cubism"

詳細は「ロニー・キューバー完全ガイド」をご覧ください。


現代・海外編:可能性を広げる名手たち

8. ゲイリー・スマルヤン (Gary Smulyan)

「現代バリトンサックスの第一人者」

ペッパー・アダムスの後継者として、現代のジャズシーンでバリトンサックスを牽引する存在。ヴァンガード・ジャズ・オーケストラを含む数々のビッグバンドで活躍しています。

  • セッティング: Vandoren V16 B9(現在のエンドース)+ Vandoren Blue Box リード 2.5。開きは大きめだが柔らかめのリードで「深みのある太い音」を作る。
  • 聴くべき名演: "Homage"

詳細は「ゲイリー・スマルヤン完全ガイド」をご覧ください。

9. フランク・バジーレ (Frank Basile)

「現代ハードバップの守護神」

ペッパー・アダムス直系のスタイルで、現代のNYシーンを牽引。圧倒的なテクニックとスピードを誇ります。

  • セッティング: Berg Larsen (Metal) を使い、太く鋭い音色を継承。
  • 聴くべき名演: "Brotherhood" (with Gary Smulyan)

詳細は「フランク・バジーレ完全ガイド」をご覧ください。

10. ハミエット・ブルーイエット (Hamiet Bluiett) ※2018年逝去

「フリージャズのバリトン巨人」

ワールド・サキソフォン・カルテット(WSQ)のメンバーとして、バリトンサックスの表現の限界を押し広げた奏者。サーキュラーブリージングやマルチフォニクスを駆使し、バリトンの未踏の領域を切り拓きました。

  • スタイル: フリーかつパワフル。バリトンの音域を極限まで活用。
  • 聴くべき名演: "Steppin'" (World Saxophone Quartet)

11. ブライアン・ランドラス (Brian Landrus)

「次世代バリトンサックスの旗手」

現代ジャズにおけるバリトンサックスの最前線にいる奏者。バスクラリネットも演奏し、低音楽器の可能性を追求しています。

  • スタイル: リリカルでモダン。現代ジャズの和声感覚をバリトンに昇華。
  • 聴くべき名演: "Mirage"

日本編:国内シーンを支える名手たち

12. つづらのあつし (Atsushi Tsudura)

「日本のバリトン界を支える第一人者」

日本を代表するバリトンサックス奏者であり、教育者。その正確なテクニックと幅広い音楽性は、多くの日本人奏者の指標となっています。

13. 宮本大路 (Dairo Miyamoto) ※2016年逝去

「バリトンを『主役』にした日本のレジェンド」

熱帯JAZZ楽団などで活躍。バリトンを「地味な楽器」から「派手で格好いい楽器」へと世間に知らしめた功労者です。

詳細は「宮本大路完全ガイド」をご覧ください。


セッティング別:あなたの目指す音はどっち?

理想の音を見つけるために、奏者のセッティングを参考にしてみましょう。

方向性 奏者のタイプ 推奨セッティング
パワフル・エッジ(ハードバップ) アダムス、ブリニョーラ、バジーレ Berg Larsen (Metal) / 硬めのリード
パワフル・ソウル(ファンク・ラテン) キューバー François Louis カスタムメタル系 / 中硬のリード
モダン・オープン(深みと太さ) スマルヤン Vandoren V16 B9 系 / 柔らかめのリード
ウォーム・ビッグサウンド カーネイ 大きめチェンバーのラバー系(Woodwind "Sparkle-Aire" 等)
軽快・リリカル(クール) マリガン、チャロフ M.C. Gregory / Gale など開きが狭めのマウスピース / 薄めのリード

マウスピースの詳しい比較は「バリトンサックスのマウスピースを4本乗り換えて Berg Larsen ラバー115に辿り着いた理由」を、リード選びは「リードの選び方完全ガイド」をご覧ください。


まとめ:自分の「目標」を見つけよう

バリトンサックスの面白さは、セッティング一つで「チェロのような甘い音」から「重戦車のような咆哮」まで変化することにあります。まずは気になった奏者のアルバムを1枚、じっくり聴き込むことから始めてみてください。

各奏者の代表アルバムは「バリトンサックス ジャズ名盤ガイド」でまとめています。